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『そうかうちのもサルか』
2005/11/05 UP

今年の夏に、下から蔦がこの6階まで伸びてきました。淡い緑色したつやつやの芽と葉とツルが見えて、次に指の先が吸盤みたいになった「手」で、網戸に食いつきはじめました。ツルをつかんで、ぷちぷちっと取ってしまえばもうその箇所は諦めてよそへ行ってしまう、すなおなところがすこしかわいい。でもやっぱり毎日確実に非常階段をおおっていくそのつやつやの緑の葉にぎょっとし、やや憤りを覚えていたのを告白しましょう。そーんな爬虫類のウロコのようなはっぱも今では紅葉し、茎まで赤い、そのきれいなこと。アブラが抜けて、ちょうど良くなった油揚げでしょうか。いや、季節のごあいさつをしようと思ったのがこんなに長くなってしまいました。

「そりゃ学校に行きはじめたんだから」とは、わたしの「あの子、だんだんサルみ
たいになってきて」というつぶやきを受けて、誰かが言ってくれたものですが、たしかに、学校に行くようになってからか、これは。デリに入ればアイスクリームの扉に飛びつき、夕飯前だからだめだと言えば、客のだれかが「カモーン」なんて余計なことを言い、それでもかたくなにしていると、レジカウンターの下のガム、キャンディーの類を並べ替えたり掴み取ったり、果物をかたっぱしから突っつき、以前からしていたとはいえ、それが派手にパフォーマンス化されてきた。レストランでも「やめろ」というのに大きな声を出したり走り回る。もちろんもっと小さい頃にもしていましたが、「度が過ぎ」てきたのを感じずにはいられません。

ちなみに、まだレストランなどで怒りを炸裂したことはありませんが・・。

以前、ドラマに出てきそうな「お母さんらしい」服装をした、ひっつめの、にこや
かな、丁重な物腰の、男の子二人のお母さんにお会いしたのですが、子供たちがあるお宅に慣れてきて、だんだん好き放題にサル化した時、瞬時にそのお母さんの眉間に太い2本のタテじわが入って、眉と目が平行に並ぶ線となり、「くうrrrrらっっ!」という喝が、一発まっすぐ空に放たれたのでした。
その後もにこやかなおしゃべりの合間に、「・・にやってんだーうrrらー!」とか、「っとぅあー!」とか、目には見えない竹刀がぶんぶんうなってるようでしたが、どこか感銘を受けたものでした。それで子どもたちは 20秒静かにするものの、またサル遊びが繰り広げられるわけです。

今「ナニー911」というテレビ番組をこちらでやっていて、たまたま先日垣間見
たのですが、やっぱりサルとなった子どもの行動に、お母さんが悩んでおりました。見ていて辛いのは、お母さん、怒らないように我慢して、しくしく泣いてる様子でした。
それとはまた別に、息子の行っているのと違う幼稚園で、評判のよい園長さんは、御自身3歳の息子さんと今年生まれたばかりの赤ちゃんを、ベイビー・ビヨーンで体にくくりつけたまま、昨年立ち上げたその幼稚園を経営しています。その3歳の男の子が公園でむずかった時、園長先生は長ーい時間をかけてその子に説いていたそうです。

怒らないんですよねー。叱らない。説く。そこまでできないよー。
わたしは子どものころから叱られるのが怖くて怖くて、ただ注意されただけでも胸がつぶれるような思いがして涙が出るのは、今でも変わりません。注意されただけで泣いちゃうって、自分でも変だとは思うのですが、自動的なので、そういうものということにしております。
自分がそんなものだから、なるたけ子どものむずかりには大きな声をあげないようにし、粘り強く接するか、泣かせて知らん顔をするほうなのですが、どうしてもここを通らなければ次へ進めないような時、こらえきれずにどっかーんと吠えます。
寝る前にハミガキをするので、洗面台の下に踏み台を置きます。そのややいちょう型の踏み台は、そのままでは狭い洗面台の足元に入りきらず、タテにして入れて使っておりましたが、その夜息子はそれが許せなかったらしく、ヨコに入れようとやっきになり、真っ赤な顔に涙と鼻水でどろどろになりながら、ぎゃあぎゃあやっておりました。
その日わたしは体調が優れず、トーマスを動かすにも目が回るので横になり、就寝時間が来るのを今か今かと待っていたのでした。
ほっとくと布団にとんでって寝てしまいそうだが、ハミガキは必ずするのだ。「全
くだ、形が合わなくてきれいに入らないね、」などと迎合しつつ、数分後、やっと歯ブラシを口に入れてるうちに、「痛い」と言う。歯ブラシが歯茎のどこかに当たったんだかなんなんだか。今度はそれが悲しくて泣き止まない。磨き粉が喉の奥に入りそうだ。「いいからうがいしちゃおう」と言ってもしないでひたすら泣いている。私も時々床に座って息をつきながら再トライ。コップを手渡すと、洗面器の中に投げ込んで、その上に磨き粉を口から落とし始めたのを見て、なぜかタガが外れて雷が落ちた。自分でもびっくりするほどドスの効いた音がでた。ハミガキ前に「おしっこ出ない」と言い張っていた息子がものすごくおびえた顔をして泣きながらちびっていたのを見て、自分が嫌になってしまいました。この子も私と同じ怯え癖を盛ったらどうしよう。

学校で、あるいは他のお母さんに見てもらっている時、お父さんと二人でいても、
スムーズにやっているらしく、「彼は他の子達ともじょうずにつきあえるし、安定し
ていて、とても良い子です。」と言われているが、これが私が顔を見せた途端に様変わりする。全てに関して難しくなるのだ。まったく前に進まなくなる。今まで仲良くしていた子の嫌がることまでしだすし、極小の理由でむずかって泣く。
これにはなんだか自分だけが足かせくっつけて歩いてるみたいで、馬鹿馬鹿しく
なってしまう。

雷をおっことしながらも最近思うのは、子どもが「泣きながら諦めようとがんばっ
ている」ことで、産まれ出てきて外の世界と自分の思うままとの違いからくる摩擦に、大なり小なりいちいち抵抗し、どうしようもないときに、それでもまだ抵抗したい時、泣いて泣いて諦めようとしている。物事が自分にいい方に急展開するのを望んでるだけではない。頭の中ではわかっているからだ。実際にベソかきながら、おもちゃを棚に戻したりする。
泣いて自分の気持ちを表現しているのも、いつか言葉に変わってくるかもしれな
い。悔しいとか悲しいとか、こんなに嫌だったと感じてるんだよということを母ひと
りにぶつけてくるのを「甘え」と呼ぶならそれもいい。きっと必要なことなんだろ
う。上がったり、下がったり、泣いたりわめいたり、付き合ってやるのにも意味があるし、愛がなければこんなの本気でつきあえないよ、と、ここんとこ思うのです。

でも、やっぱり背負いきれなくて吠えるのはもうどうしようもない。特別な役割を
もらえたのは光栄だけど、君もこの母に付き合うのじゃ。子どものサル度が増すにつれ、これからは私もさわやかに喝を飛ばすんだろうなあ、スカーっと。

大口一葉 ふかふかまんじゅうキック


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